日々のあれこれーのんびりくらし

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終の棲家で花遊び❀

革命屋の革命 松本清張「昭和史発掘」読んでます

松本清張の「昭和史発掘」文庫本で全9巻。

新しい発見の連続で面白いけれど、資料の引用がカタカナ混じり文だったり、深い考察が続いて読み進めるのが大変です。

 

 

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「昭和史発掘」いよいよ2.26事件に

第1巻 陸軍機密費問題、石田検事の怪死、朴烈大逆事件芥川龍之介の死、北原二等卒の直訴

第2巻 三・一五共産党検挙 、満州某重大事件、佐分利公使の怪死、潤一郎春夫天理研究会事件

第3巻 「桜会」の野望、五・一五事件スパイ"M"の謀略

第4巻 小林多喜二の死、京都大学の墓碑銘天皇機関説陸軍士官学校事件

第5巻 二・二六事件相沢事件軍閥の暗闘、相沢公判

第6巻 北、西田と青年将校運動、安藤大尉と山口大尉、二月二十五日夜

と、5巻からいよいよ2.26事件に入ってきました。

 

 

1冊を読み終えるのに時間がかかり、メモするでもなく読んでいたのでうろ覚えの部分もあり、ひとまず前半の感想。

 前半のおすすめ

 芥川龍之介の自殺や、谷崎潤一郎の細君譲渡事件などは知っていましたが、「北原二等卒の直訴」や「天理研究会事件」はすごく関心を持って読みました。

 

「北原二等卒の直訴」は、部落出身者が軍隊内で差別を受けることを天皇に直訴しようとする事件。

私自身は部落差別について書物などからの知識しかなく、戦前の部落出身者の差し迫った危機感をどこまで理解できたかわからないですが、この差別を逆手にとって新入りが先輩兵の世話や理不尽な暴力を受けることすら反発するところが痛快。

 

「天理研究会事件」は、天理教とそこから派生した天理研究会(ほんみち)について。こちらも私自身が信仰心が全く無いので(人並みの良心を持って生きているつもりだが)宗教に囚われる(則る?)生き方をする人たちを驚きの目で見てしまう。

理研究会をひらいた大西愛治郎は、不敬罪治安維持法違反で服役するも終戦とともに免訴

私が印象に残っているのは、「大西がいるところに爆弾は落ちない」とした予言を信者たちが信じ実際偶然にも空襲を受けなかったため安心しきっていたということと、普通服役しているときには配膳のときに役得で自分を多くするものなのに信者たちは信仰のためかみなに公平にしていたと同じく服役していた共産党員が感嘆していたという話。

 

 三・一五共産党検挙、スパイMの謀略、小林多喜二の死と共産党がらみの話も続きます。

多喜二の話は途中でつらくて読み飛ばしてしまいました。

 世直しと暗殺

一方、後半の2.26事件につながる流れとして、桜会の野望、五・一五事件陸軍士官学校事件と繋がっていきます。

 

繰り返し作中でもでてきますが、昭和初期日本はひどい不景気で失業者も多く、凶作による農村恐慌で深刻な状況でした。

 

満州事変で軍需インフレが起こり、軍需産業に乗り出した財閥はより巨大化。

軍需工業の発注は国なので、当然政府や政党と結託するのは当然。

 

さらには満州という植民地の搾取が国内にも反射して国内労働者の賃下げ、労働時間の延長に現れたと。

『三井合名の常務理事だった益田孝が、満州では生活費が一日にわずか十銭なのに日本人はどうして五十銭もかかるかということに目をつけ(中略)、米と豆腐くらいを食べておればよい、云い、賃金の切り下げを合理化しようとしたという。』(6巻85P)

 昭和6年と9年に大凶作があり、昭和9年の東北6県の婦女子の出稼ぎは約6万(7年には1万2千人)で、その大半は娘の身売り。

乳幼児の死亡率は全国13%だったのに、岩手県の一部では9年には59%になり、徴兵検査の甲種合格率が全国1,2位だったのに昭和7、8年には32番から34番に下がった。

民間でも、政治運動を行う結社が多数できて、国家改造のためには暗殺、という事件も起きる。殺人は良くないとわかっているけれど、あまりの格差のひどさに庶民としては支持しちゃう人もいたんじゃないかな。

著作の中では、世論については触れられていませんが。

 

青年将校運動

農村出身の兵に接することの多い青年将校たちは「帝国陸軍の危機」と考えて、
独占資本的な財閥とそれを庇護する腐敗した政党、それらの政党を支持している重臣たちを憎むべき敵とした。

 

資本主義打倒は左翼の思想だけど、青年将校のめざすのは反財閥・反政党・反重臣(君側の奸を倒す)と近くなっているのが興味深い。

ただし、根本的に違うのが左翼は労働者や農民の解放だけど、青年将校たちは軍部を媒体として天皇親政を行うという理想。

国民を苦しめているものたちを取り除けば、天皇に認められて良い世の中になると信じているように見える。

 

清張が関係者の著作や法廷証言などをたんねんに積み上げているけど、読んでいて「純粋バカ」というか維新後のビジョンを持たないところをもどかしく思う。

同情してしまう。

 革命屋

彼らに影響を与えた大川周明北一輝なども前半から出てきますが、

この人たちはたんなる革命屋のようで腹立たしく思います。

「革命家」というとなんとなく思想をもって運動しているように思いますが、「革命屋」というのは革命によって儲けようと企んでいるような人をイメージして私が勝手に言っているものです。

 

北一輝の「日本改造法案」は「天皇大権」によって資本主義機構廃止をして、「在郷軍人会」が改造に関与。貴族院華族制を廃止し、普通選挙を実施する等々。

国家社会主義とでもいうようで、国民の私有財産に限度を設け超過分は無償で国家に納付させるとか、「天皇の財産」すら国家に下付。

 

この後も要旨だけでも多くの頁を割いていますが、素人ながら「これは天皇を現人神として神格化して立憲君主制をとっている当時の日本では無理だろうな」と思います。

でも、この著作に多大な影響を受けた将校たちがいるというのだから、どうにかして世の中を変えたいと思っていたのでしょう。

 

北は中国革命に関わってこの著作を書き上げ影響を与えた割に、生活に困って言いがかりをつけて資本家から金を巻き上げる大陸浪人に成り下がり、思想家として認められたのちに自宅を訪れる青年将校たちの動きを財閥や軍上層部に情報を売って金品をもらっているあたりがなんだかあさましい。

 

青年将校たちが決起の時期を決めたときに、北やその子分の西田は「時期尚早」として止めようとしたあたりも、本音は叛乱幇助罪などの重罪になる可能性を恐れたからとも清張は書きます。

革命の必要性を説き、でも時期尚早と抑える。危機の持続がある限り、政財界に売る情報はあり、危機が去ってしまったら逆に困るため、あぁー、なんか嫌。

 

桜会事件のときも、革命資金を得た一部の同志が待合で芸妓を侍らせて宴会して「宴会派」と揶揄されていたり。

その芸妓にならざるを得なかった人たちを救うのが革命だったんじゃないの?とかね。

ここまでの感想

これから二・二六事件がおきて、きっと丹念に証言などを積み重ねていくのだと思います。結末を知っているけど、秩父宮昭和天皇の動きなどあまり知らなかったのでどのように書かれているのか気になります。

 

昭和維新」は挫折して、軍部の暴走を招いて戦争に突き進むことになったと歴史の時間に教わったけど、今の日本は大丈夫?

今の日本で「革命」を叫ぶ人はいないけど、でも逆に政治に興味関心がない人が多くて、知らない間に改悪が進んでいるようで怖い。

だからといって何ができるかなという漠然とした不安。

 

自民党憲法改正案では国防軍ができたときに、内閣総理大臣が最高指揮官になるんですって。

モリカケ問題で誰が見ても不自然なお友達優遇を行っておきながら平然としていたり、アベノマスクの批判轟轟でもやめないし、コロナの第二波がきても全く記者会見もしないような人が、有事の際に総理大臣だったら任せといていいのかしら。

 

政府と知事で意見が割れたり、身を挺して頑張ってくれている医療従事者をもちあげるだけで何か補償をするでもなく、

なんだか責任者不在の戦前の権力者(政財界・軍部上層部)たちと似てる気がしないでもない。

 

改正案では拷問について「禁止する」になりました。現行では「絶対にこれを禁ずる」なんですが。

集会、結社及び言論の自由は保障されているけど、公益および公の秩序を害することを目的とした場合は認めないという項目が新設されています。

この公益っていうのはどこまでが含まれているんだろう?

権力者に反対したら?

なんてことを考えると、あえて憲法改正しなくてもいいと思います。

 

香港のアグネスさんを見ると若いのにすごく考えて行動していてすごいと思うものの、拘束されて怖かったという彼女のセリフに共感します。自分なら巨大な権力と戦うことはとてもできない。

 

今の日本で権力と戦う必要はないけど、無私無欲の権力者なんていないからまるのまま信じたりせず、監視を怠らず、唯一の手段の選挙で意見を表明するしかないですよね。

とりあえず憲法改正は保留というか反対で。今のままでも私は特に支障無しです。

 最後は感想というより持論になってしまい、長々とすみませんでした。