日々のあれこれーのんびりくらし

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終の棲家で花遊び❀

「先生のお庭番」「愛なき世界」大当たりです♪

私は園芸が趣味。子供の頃から花を育てたり、増やしたりするのが好きです。

なので、新居では思う存分ガーデニングを楽しもうと思っています。

 

今回の本はどちらも植物に関係して、読後感がとても良かったです。

 

朝井まかて「先生のお庭番」

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朝井まかて「先生のお庭番」

お庭番といっても隠密ではなく、園丁として出島のシーボルトの薬草園の管理をしていた若者が主人公。

主人公熊吉は「コマキ」(熊吉が言えない設定)と呼ばれ、シーボルトからほめられ、妻の「オタクサ」(お滝さん)から可愛がられ、おるそん(黒人の召使)と仲良く、ひたすら薬草園を充実させるために努力し成長していきます。

その庭造りの工夫が、ガーデニング好きの私は読んでいて楽しい。

奉公先の女将さんや兄弟子にいじめられていた熊吉がこつこつ作業をして、シーボルトやその弟子や通詞たちからも認められるのも微笑ましい。

 

作中、シーボルトが何度も「やぱんの自然は多様で美しい」とヨーロッパの単調な自然と比較して感動したり、熊吉が一生懸命工夫する様を、『身分の低い者が言われたこと以外のことを工夫して素晴らしい仕事をすることはヨーロッパではありえない』と驚かれたりします。

訪日外人が「ニッポン スバラシイデスネ!」と感動する番組のようですが、日本の四季ある自然が美しいことや、職人が誇りをもって仕事をしたであろうことは、誰もが認めるところ。

「母国へこの美しい日本の植物を持ち帰りたい」というシーボルトの希望を叶えるために熊吉が工夫する様には、健気で心打たれます。

 

蘭学を教えるシーボルトは弟子の人望も厚く、江戸参府へ同行した時は公儀の学者がほしがるものを惜しげもなく与えたり、といった人物に描かれています。

天文方にはヨーロッパの最新の海図を、御典医には薬の処方を。

「他者への支配力を増すために人は知識を手に入れたがる。であれば、それを惜しみなく与えた先生は相手に対して、もっと大きな力を持つことになることになるとやなかろうか」熊吉は、闘わずして相手の心をつかんだシーボルトへの尊敬を強める。

 

(ここからネタバレです。ご注意ください)

 

 

 

 

 

シーボルトといえば、「シーボルト事件」

最終盤、この事件が出てきます。

帰国にあたって、日本の地図を持ち出そうとしたシーボルト。関連した学者や通詞などは処罰されます。

熊吉も取り調べをうけ獄に入れられたりします(解放されますが)

日本の自然を愛し、諸国にいる弟子と文通していたシーボルトだが、実は阿蘭陀の要請で日本の産物や地図などを調査していて、情報を報告しようとしていたのではないか。

帰国願いを出したのが、実は子供ができたことがわかってからと知って、妻はショックを受けます。周りからは「阿蘭陀行き」(遊女の中でも最下等の扱い)とさげすまれていても、妻として家族として愛されていたと思っていたために。

自分の知っていたシーボルトの姿が本物だったのか?

 

台風直後に、黙々と片づけをする熊吉に「なぜ怒らないのか?」と迫るシーボルト

「自然と闘うことで知恵を磨いてきたのが人間だ」と。「いずれ自然を支配下におくだろう。そうすれば、楽園で安穏に暮らせる」というシーボルトの言葉に熊吉は衝撃を受けます。

『先生にとって自然は共に生きるものではなかったんだ』

 

ここが私としては、すごく印象に残っています。

八百万の神様がいる日本(登山のときに森の中にいると精霊というか山の神様がいるような気がします)に住んでいると、最近の災害の多さに「自然の力には敵わない」とつくづく思います。

神が人間も含めた世界を作ったとするヨーロッパでは、人間は自然に打ち勝つ存在なのですね。

「虫の鳴き声がうるさいから薬を撒け」と言われて「花を愛でるのに、虫の声はうるさいのか」とショックをうける熊吉。

西洋と東洋の違いがここにも。

 

終章に開国後シーボルトが再来日したことがでてきます。

そこでも、「シーボルトって本当はいい人だったの?」と迷います。

ただ、この小説の見どころは、健気な庭師熊吉なので読んでいて楽しかったです。

 

三浦しをん「愛なき世界」

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三浦しをん「愛なき世界」

舟を編む」(「大渡海」という大辞典の編纂メンバーの話)を以前読んで、ひたすら仕事に打ち込む人々の姿は美しい!と感動した私ですが、

今回は、植物学の基礎研究にうちこむT大学の研究室が舞台。

こちらはとにかくさわやかー。

キャラクターもみな個性があって、いい人ばかりで、アニメか映画化しても十分ヒットしそうな良い話。

T大そばの洋食屋の見習い藤丸くんが恋したのは、T大大学院生の本村さん。

彼女は「シロイヌナズナ」の研究が何より好き。

部外者の藤丸くんが自分が感動する現象を共感してくれたことを嬉しいと思うものの、
植物には脳も神経もない。感情もない。「愛のない世界を生きる植物の研究に、すべてを捧げるときめています」と告白を拒絶してしまう。

 

でも、それを理解して受け入れ、友達付き合い(というか密かな恋心)を続けるあたりも青春ドラマだわー。

昭和生まれの おばちゃんは、こういうの大好きよ!

 

 研究内容の記述部分はざざーっとはしょって読んでいたけど、とにかく登場人物たちが植物を好きすぎるということが分かります。

植物の基礎研究はお金にならなそうですが、こういうことを地道に研究している人たちがいるということが素晴らしい。


ただ、本村さんは研究に身を捧げると決めて、恋愛から遠ざかっているけど(女性研究者が結婚や出産で選択せざるを得ないと作中でも当たり前のように出てきます)、男性ってひたすら研究してても家庭を持ってますよね?

ノーベル賞受賞者の先生方はご夫婦で受賞式に出てる。

彼女のような発想をしなくてもよい環境が作られたらいいのに。


 

話は全く変わりますが、園芸品種を作り出す方たちにも感謝です。

年々熱帯化していく日本の気候に合わせて園芸品種を改良してくれているおかげで、素人でも楽しく庭を飾ることができます。

新居での庭づくりが今からとても楽しみです。