日々のあれこれーのんびりくらし

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終の棲家で花遊び❀

北方謙三「史記武帝紀」・中島敦「李陵・山月記」読みました

 

北方謙三の「史記 武帝紀」

 

北方謙三の「史記 武帝紀」は、前漢7代皇帝武帝の時代を描いています。
国力充実、最大版図を築いたり、世界史の授業では前漢で有名な皇帝。
登場人物たちも有名人揃いで懐かしー。
戦闘シーンも臨場感強し。
 
なのですが、読了後の感想は、
武帝って何なの?権力者が老いるって哀しいことだなあ、ということでした。
 
若くして皇帝になり、外戚や皇太后の力に押しつぶされそうになりながら、
それまでの守りに徹していた対匈奴戦を、積極的に攻めることで国土を守る戦略を立てる。
武帝のその意図を理解し、それまでの漢民族の戦い方とは違う「騎馬隊」を作り
根本的に発想を変えた戦略で匈奴戦を勝ち抜いた奴僕出身の衛青将軍。
衛青将軍と甥の霍去病の二人の天才的な将軍のおかげで匈奴は北のほうに追いやられてしまう。
国土を充実させるために大規模な治水工事もしたりして、
青年皇帝の自信があふれていた頃。
 
その一方で、それまで侵略者を撃退することなら常勝だった李広将軍。
漢の飛将軍と呼ばれ、匈奴も李広将軍の守っている地域は避けるほどだったのに、
皇帝の意図と合わないために評価されない。
(衛青将軍は、その清廉な老将軍に敬意を払っているけれど)
戦いで道に迷い合流できなかったことで自裁してしまうなんて悲劇的な最期を迎える。
李陵はその孫で、衛青将軍にも目を掛けられている。
 
なんだかねー、前半3巻は、衛青の活躍にワクワクしながらも
李広将軍にサラリーマンの悲哀を見て悲しくなってました。
 
そして、三巻の終わりで24歳の若さで突然霍去病が病死。
北で逼迫していた匈奴が過酷な土地で耐え抜き、
個人戦から隊列を組んで闘うという戦法の転換をして捲土重来を図る。
この頃の、匈奴の話がいいのよねー。
漢では皇帝は贅沢を重ね、役人たちが他人を出し抜いて出世しようとしているのと違って
部族全体で生き延びることを考えて、単于(王)自体が質素で戦っているところとか。
 
 
後半となると、
若い時には諫言や直言も聞いていた皇帝が、ちょっとしたことで臣下を処分するようになる。
一族郎党皆殺しとか。
側近たちは、皇帝の考えを忖度して意に沿うように動いて、何も言わなくなる。
衛青将軍も霍去病将軍、李広将軍もいない漢の軍隊は匈奴に負け続けるも、
寵愛されている皇后の兄の李将軍は処罰されず。
 
そしていよいよ、李陵、蘇武、司馬遷など有名人が中心に。
歩兵で匈奴に攻め入って捕虜となった李陵、
その李陵をかばったために宮刑を受けた司馬遷
(この罰をお金で贖うこともできたのに司馬遷はそうしなかったとこの小説では描かれている。)、
漢の使節として匈奴に派遣され、
事件に巻き込まれて匈奴に降伏を薦められるも断り北の地に流される蘇武。
 
この3人は、一度死んだ人間となって、その後の人生を生きているよう。
李陵は、漢にいた家族は族滅となり、匈奴の将軍となって匈奴の家族を作る。
司馬遷は、感情を持たずひたすら歴史書の著述を続けることで生きている。
蘇武は、匈奴に降伏するというより、
すでに酷寒の地の自然に負けないことで生きている実感を得ているというか・・・
この蘇武のサバイバル生活がすごい。
 

中島敦「李陵」 

 
北方謙三中島敦の「李陵」に影響されてこの小説を書いたとあったので、
5巻まで読んだところで、中島敦を読む。
中島敦版の李陵と蘇武にも泣けて、
これを北方謙三はどう描くのか興味津々。
なるほどねー。
これを書いちゃうとネタバレになるのでここは省略。
 
皇帝は誤りをしないということで、後悔をしてもそれを表に出せず、
孤独の中で生きていくというのが辛いとなっているけど、
それにしても、臣民の命を簡単に考え過ぎ。
古代も中国は人口が多いからなのかしらん。
偉大すぎて長所も欠点も極端すぎると描かれている。
そうきたかー。
 
桑弘羊という侍中出身の側近がいるのですが、
武帝の政策を実現するために身を挺して金策を考える。
均輸・平準法ですって。懐かしいよー。
晩年に「あなたのような文官がいて、国庫が充実していたから皇帝があんなになった」と非難されたりもして。
 
 
武帝が自分の老いを認めずもがく様子は見苦しい。
どうして、若いころの柔軟な発想を忘れてしまうのかな。
と、いいつつ自分もだんだんと頑固になっているような気もする。
 
久しぶりに面白い歴史小説に出合いましたー。
 
 
実は、年末年始に久しぶりに司馬遼太郎を読もうと思って
未だ読んでいなかった「燃えよ剣」に挑戦して、
土方歳三の思想の無いケンカ生活にいらついて上巻の前半で挫折。
(師匠が「しゃおれんは絶対に土方歳三を嫌いになるから読まない方がいいよ」と言ったけど本当にそうだった)
「城塞」も読みだしたけど、真田幸村が出てくる前に淀君のヒステリーにガッカリしてこれまた挫折。
私って、歴史小説にはカッコイイ人物を望むので。
「毅然として」、とか「従容として」とかそういう表現が使われる人物が好き。
人を殺さない戦争をする頭のいい軍師とか、強いけど部下を大事にする武将とか、
妻を大事にする大名とかも好きかも(←これはカッコイイとかは別かな)。
そんな歴史小説ないかなー。