春頃、黒岩重吾氏の古代史小説にハマってあれこれ読んでいました。
藤原不比等の存在がとても大きいので、今度は逆側から読んでみようかと。
男性の作家ではなく、女性作家の作品で。
永井路子「美貌の女帝」
こちらは昔読んだことがある、持統・元明・元正の女帝側から見た古代史の小説。
頭脳明晰でイケメンだったために近江朝廷の重臣の子でありながら持統女帝に引き立てられ出世していました。
が、こちらは全く逆。ご落胤説は全く無く、
不比等の娘を皇后にしたくないけど、皇族の女性でつりあう人がいなくて悩んでいたり、
それだけ血が濃かったら、弱い子供になるのも仕方ない。
同じ事件でも、見る方向が違うとここまで変わるのかと面白かったです。
教科書では、ここまでマニアックな話は習わないので、あくまでも好きな人にだけお薦めです。
作品を変えれば描かれ方も変わるかな?
梓澤要「橘三千代」
ずばり、彼女を主人公にした小説を読んでみました。
もともと、犬養という姓が分かるように屯倉の犬の管理をしていた中堅氏族の出身。
出仕し始めると持ち前の機転の良さと根性でどんどん出世していきます。
前向きな主人公なので、なんら恥じる処もなく進んでいるけど、
これ、現代ドラマにしたらかなり感じ悪い女性かも。
産んだ子供たちより、乳母子たちの繁栄を第一にして、
自分を認めてくれる男性のために他の反対勢力たちも倒す。こっわー。
ちょっとこの辺で疲れたので、歴史小説はしばらく休もうと思っていたのに、
先月韓国の海印寺に行った時に、
「韓国って大陸と陸続きだから中国の王朝に何度も攻められているなあ」と今更ながら思い、
そんなことを描いた小説ないかな、と思って読んだのがこちら。
井上靖 「風濤」
元に攻められ滅亡寸前になった高麗が、
元の苛斂誅求に苦しみ、いっそ属国となるほうがいいのかと公主の降嫁を請うたり、
辮髪したり官制も元の制度にしたり・・・
フビライが高麗の次は宋を滅ぼし、東の島国日本へ興味を示す。
日本が元に朝貢するようにしてくれれば、征討軍が高麗に来ないから救われるのに、
日本はそんな高麗の事情を全く知らず、元の強大さも知らないので。
元軍のために船を作り、兵士、船の漕ぎ手等々に高麗の男はみな徴発され、
兵糧として収穫も取り上げられ、勝ったとしても高麗にはメリット無いのに戦争に巻き込まれる。
元寇自体は、全く描かれていません。
征討軍が出港しました、次の頁で、嵐により惨敗して逃げ帰ってきた程度の叙述です。
そう、延々と描かれているのは、ひたすらフビライの要求に耐え忍ぶ高麗王と忠臣たちの姿。
日本は無事国難を乗り切ることが出来て良かったとはいうものの、
だけど、高麗と比べたら中国と国境を接していないというのは歴史的にかなり影響が大きいことなんだなあと思いました。高麗だけでなく、李氏朝鮮時代も何度も攻められているし、古代も唐の支配を受けていたっけ。
自分の国さえ良ければ何やってもいいのか、っていうところは現代にもつながる問題で
(当然ダメなんだけど、そういう常識が通じない相手もいるのが現実で)
だけど、対抗するために武力増強しようという考えは、結局人口や資源などの国力の差で勝敗が決まるわけで、
(まさか、この時代に物資の不足は大和魂で、とか精神論持ち出さないですよね?)
どうにか軍事衝突だけは避けて世界が平和になってくれないかなーと祈るばかりです。