日々のあれこれーのんびりくらし

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終の棲家で花遊び❀

歴史小説読み比べ

このところ歴史小説にはまっていました。

冲方丁「はなとゆめ」

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冲方丁「はなとゆめ」

華やかな装丁。主人公は清少納言です。清少納言一条天皇の皇后定子に仕えた才女として「枕草子」を書いたとして有名ですよね。

この小説は、定子が宮廷で見せてくれた「華」や「夢」のような生活について清少納言の視線で描かれています。

なので、当然定子は心映えがよく周りへの配慮も忘れない貴婦人であり、一条天皇は定子を心から愛していて、父藤原道隆は気さくでおおらかで、定子の兄伊周は貴公子として描かれています。

実際はどうだったのでしょう。実家が傾いた後も寵愛は変わらず子供も3人も生まれているので(この当時外戚の力が弱い親王の立場は不安定ですが)、やっぱり若い一条天皇は定子を愛していたのではないかなあと思います。

これまで色々この時代の歴史小説を読んだけど、定子が悪く描かれることってほんと無いんですよね。

彼女の不幸は父が早く亡くなって兄弟が小人物で、叔父の道長に敵わなかったから。この小説もそのパターンでした。

ただ、この小説、私としてはちょっと苦手でした。

清少納言は「宮仕え」というものに強い憧れを持っていて、いざ出仕したものの中年(28歳)だったので、気後れして恥ずかしかったということが延々と書かれています。「枕草子」でハキハキと受け答えして褒められた話からは想像もつかないくらいのモジモジっぷりが読んでいて歯がゆくてイライラします。

めんどくさいこじらせ女子みたいでした。

「私」の目線で描かれる小説がうっとおしく感じるって年のせいかしら。

 

 永井路子「この世をば」

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永井路子「この世をば」

こちらは、先ほどの「はなとゆめ」の逆の立場から見たものです。

主人公は藤原道長。「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることも無しと思へば」

という有名な歌からタイトルがついています。

ただし、この小説での道長はいつもの老獪なイメージではなく平凡児が、幸運によってこの地位に登れたというように描かれています。

末っ子の道長は、兄たちに出世が遅れたものの、運よく疫病を逃れ高官たちの死によって官位が上がる。姉は一条天皇の生母で道長と仲が良く引き立ててくれる。

平凡児だったからこそ、バランスを重視しておごり高ぶることもなくうまく渡ってこれたようになっていました。

倫子がよくできた妻に描かれていました。道長には正妻の倫子と明子くらいしか妻として認識される女性はおらず、二人の下に子供がたくさんいます。倫子の娘たちが天皇の后になり、例の歌が詠まれることになるのですよね。

晩年に倫子が夫が変わったと思うシーンがあります。平凡児も高位に登ると傲慢になってしまうのですね。

小説の中に「あ、このエピソード知ってる」というような話が散りばめられていて、同じ事件でも定子側から見るか、道長側から見るかで全く違った話になるのが面白かったです。

私は今回は永井路子さんの小説のほうが面白いと思いましたが、読み比べもいいかもしれません。

 

灰原薬応天の門

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灰原薬応天の門

こちらはマンガです。5巻くらいまで読みましたが、まだまだ連載中で終わらないと思います。だって、いくらでも続きそうな話なので。

在原業平菅原道真が京で起こる事件を解決していく話です。

途中史実に基づいた歴史的エピソードもありますが、応天門の変や道真が流罪になるまでだいぶかかりそう。だって、まだ道真は少年なので。

写真の表紙の目つきの悪い少年が菅原道真です。文章生としてまだ官位もないですが、その知識を活かして、少将の在原業平が持ち込む怪異などを分析して解決するのでスッキリします。

平安時代ってとにかく物の怪や得体の知れない何かに襲われたりするのですが、今のように夜も明るくて科学も進んでいたなら何でもないことなんでしょうねぇ。

右の表紙に出てくる美女は藤原高子。業平とかつて駆け落ちしたこともある女性ですが、良房ら兄弟の出世の道具のために入内させられます。

まあこの平安初期は藤原氏の権力固めのために他氏排斥がすごくて権謀術数の嵐。

それが過ぎると、道長たちのように同じ藤原氏の中で派閥争いが起きて、実資などは僻みきった「小右記」なんか書くようになってしまうのですが。

もう少し道真が成長したらまた読みたいと思います。大人になって右大臣になって、時平とどう渡り合うのか、とかを見たい。

 

司馬遼太郎功名が辻

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司馬遼太郎功名が辻

高知城に行った時にまだ司馬遼太郎の「功名が辻」を読んでいないことに気づいたもののすっかり忘れていてやっと読みました。

山内一豊の妻といえば日本一の妻としても有名ですよね。一武士から国持ち大名まで出世させたのですから。

妻の千代と伊右衛門(一豊)が主人公ですが、1,2巻のまだ下っ端でいくらでも功名をたてる余地のあるころはワクワクと楽しかったけど、後半は読み飛ばしながらになってしまいました。

それにしても、千代はできた妻ですが、そんな妻に任せてくれる夫もできた夫だと思います。自分はそれほどの能力が無いとわきまえて、妻に相談することを恥とも思わず助言も聞く。(妻はうまーく操縦しています)自分は妻に恵まれたと思い、妻のために功名をたてようと思い奮戦する。そして、妻はそれを褒めたたえる。

子どもは娘が一人。しかも地震で夭折してしまっても、側室も迎えず妻一人を守る。

家臣も大事にするし、上司にもこまめに相談したり、「律儀だけが取り柄」とだけ思われ、特に大きな武功もないのに生き延び、軽んじられないのは人徳。

妻ばかり褒められてるけど、ここまで育て甲斐のある夫もなかなかいないですよね。

私ももし同じ立場だったら心を尽くし、頭をフル回転させてバックアップして国持ち大名を目指しますよ!

これから、我が家には老後の二人暮らしが待っているけど、千代を見習ってうまく夫さんを操縦しなくては。夫さんは幸い私一筋でいてくれますが(当然?)、プライドが高いので、家事を教えるのも一苦労です。

そうはいっても、自分で気づかせるって家事程度では難しいですよね。

 

晩年に土佐の国主となり、長宗我部の元配下たちを鎮圧するために虐殺めいたこともしていたことになっています。
この時には、初めて妻の意見を退け家老たちの意見をもとに独断しています。

それを妻は「遠州六万石程度の人物が土佐25万石の大身になったものだから無理が出た」と批判的に見てしまう。

 

この小説から私が読み取ったことは、「自分の能力を的確に見極め、それほどでもないとわかったら周りの助言を素直に聞いて成長するほうが良い。驕りは自滅の始まり」「妻は自分の描く道に夫を歩ませるために賢さを隠し夫をたてることが必要。そして夫は妻の言うことをバカにせず聞くことが大事。(妻の上に立つ、というか支配することにたいして意味はない)」かな。

エンタメ小説として楽しみました。