備忘録として秋に読んだ本をメモしておきます
森谷 明子「先年の黙 異本源氏物語」
歴史好きの方に教えていただいた本。
中宮彰子に出仕する前の「紫式部」と式部に仕える「あてき」が登場人物。京で起きた事件を「あてき」から聞きだして「紫式部」(作品中では「御主様」とあてきは呼んでいる)が謎解きをしていきます。この小説はミステリーなんです。
第一部の「上にさぶらふ御猫」はふぅーん、という感じですが、第二部の「かがやく日の宮」と第三部「雲隠」は、どんどん引き込まれました。
藤原道長の時代、摂関時代全盛期は、後宮に娘を送って天皇の外戚になることが家の繁栄に直結します。
そのため、娘には優秀な女房をつけて後宮に送り出したい。
道長から再三の誘いがあっても式部は断り続け「ものがたり」を書いています。
当初は内輪でコアなファン相手に書いていたけれど、中宮彰子に献上してからは爆発的に評判になり京の貴族たちの間で写本が出回るようになります。
ところが11巻あるはずがなぜか10巻になっていることが判明します。
「藤壺と源氏との逢瀬」や「六条の御息所とのなれそめ」「朝顔の君」のことが書かれた一巻が途中でなくなったために、「冷泉帝(藤壺と源氏の不義の子)」が源氏の子だとはっきり分からないと、読んだファンから言われたためです。
『完成した作品が作者の手を離れたときのことを考えたことがなかった』式部は、その一巻が失われた理由を考えます。
(以下ネタバレです)
この失われた一巻は「かがやく日の宮」という巻名で、漢字二文字の巻名の中で異質な感じです。小説の題材だけでなく、この巻が失われた巻だという話は実際に研究者の間では通説らしいです。
ではなぜ失われたのか。
小説の中では、「宮中の藤壺殿で妃が不義を犯す」ということを許せなかった道長がこの一巻を焼き捨てさせたことになっています。(その時に使ったのは、まだ幼くて自分のしたことも分からない式部の娘ということになってます)
娘の中宮彰子が藤壺殿にいるので、そんな話が出回ることが許せなかったのではと推察します。
それと、もう一つ。
「源氏物語」は、藤原氏の中宮が出てこないのです。藤壺も、光源氏の養女も実子も後に中宮になりますが、全て源氏(旧皇族)。これも道長の気に入らないポイント。
事実を知った中宮は「もう一度書き直して」と依頼するも、式部はそのことでこの物語が抹殺されることを恐れて、次の巻「若紫」の冒頭にちょっと追記することで、物語の欠損をあいまいな感じを残しつつも補います。
この小説を読んで、源氏物語は高校の古典の授業で読んだけれどすべてを通読していないから不自然だったかどうかは今となってはどうだったかなと思いました。
私の学生の頃は「あさきゆめみし」という素晴らしい少女マンガがあり、男子学生もあらすじを知るためにこのマンガを読んでいました。
いくら女性にもてるとはいえ、そしてこの時代はしょうがないとはいえ、あちこち女性を作る光源氏は私は大嫌いでしたけどね。
完成した作品が世の中で変化していってしまうというのは、現代にもあり得る話。著作権で保護されているので作品自体は保護されても、二次創作など日本は盛んですよね。
そして、娯楽の少なかった当時は物語がどれほどの影響力があったかと思うと、この小説の展開も納得できました。
驚くべきはこちらの小説、ミステリー作品として「第13回鮎川哲也賞」を受賞しています。歴史もののミステリー、面白かったです。
井沢 元彦「隠された帝 天智天皇暗殺事件」
こちらも歴史ミステリー。
平成2年初版。この当時は天智・天武異母兄弟説や天智暗殺説はほとんど聞かなかったはず。
今は「天智と天武」というマンガ(BL要素が強くて気持ち悪くて私は嫌いだけど完読)に見るように、割と一般的に流布していますね。
この小説は、言論弾圧をする右翼団体に襲撃されたキャスターが、天智天皇暗殺について謎解きをする話です。
と言っても、このキャスターは、自分のマネージャーの大学生が調べていたノートを元に話しているだけですが(マネージャーは襲撃されたときにキャスターの身代わりになって亡くなっており、キャスターは「このまま埋もれさせるには惜しい」とか言っちゃって代わりに世の中に出そうと目論んでいます。インテリキャスターを目指している様子)。
日本古代史が専攻だった私は大和岩雄さんの本などを読んでいたので、同母の兄弟ではないということは知っていたし、壬申の乱の経緯なども最近の本で読みなおしていたので、新しい発見ということはなかったです。
亡くなったマネージャーの子の祖母が「犯人を知りたい」と探偵に依頼します。
探偵の犯人捜しがキャスターの謎解きと平行して進み、最後に繋がります。
たいてい小説などでは、天智天皇(中大兄皇子)は悪役。天武天皇(大海人皇子)は朗らかで男らしいいい役。でも、本当は腹黒い大物だったのではないかなあという感じがします。
「天上の虹」という持統天皇が主人公のマンガを愛読していたので、天武天皇はいい人のイメージが強いのですけどね。
トンデモ歴史説
書店やネット上にあふれるトンデモ歴史の数々。
もしかしたら後に新発見で裏付けされるのかもしれませんがどうでしょう。
「古事記・日本書紀」偏重で、他の史料を認めない歴史家の教授たち。邪馬台国論争もどっちもどっちな感じがします。お互い自分に都合の悪い資料は無視だから。
でも、だんだんと研究者の世代交代が進んでいったら研究内容も変わっていくのでしょうか。というか変わってほしい。
別に古代史の真実が分かったからと言って、社会の発展に全く影響はないけれど。
私は、今「倭の五王」がブームなので、色々本を読んでいます。
学説として出すと「トンデモ歴史」と批判されても、小説としてならアリですよね。
あっと驚くような倭の五王の小説ないかなー。読みたいなー。
ミニマリストの本棚
私は極力荷物を増やしたくない。
だから本はなるべく図書館で借り、よほど欲しい本しか買いたくない。
世の中には電子書籍という便利なものもありますが、電子書籍化はおそらくされない本を先日Amazonで中古で買いました。
事務のパートを辞めたときの自分へのご褒美です。
三段組で原文、読み下し文、現代語訳、注もあってとても便利。学生の頃に読んでいた本ですが、今買っておかないとそのうち手に入らなくなりそうなので。
電子書籍って便利ですが、机の上に何冊も同時に広げたりはできないし、サービスが終了したら閲覧できなくなりますしね。
日本書紀に倭の五王って一言もないのですよね・・・卑弥呼を連想させる記述は挿入されているのに。
日本書紀の編纂の秘密も最近読んでいました。編纂の意図が見え隠れして面白い。
「ローマ人の物語」はやっぱりカエサルを過ぎたあたりで休憩してます。バタ臭くって一気には読めません。
こういうのってお金もかからないし老後の趣味にちょうどいいですね。