今月は小説を多く読みました。電車に乗る機会が増えたので読書の時間にしています。
司馬遼太郎「新史 太閤記」
夫さんの持っていた文庫本。「国盗り物語」(斎藤道山・信長・光秀)「覇王の家」(徳川家康)と連作?。
昔に読んだことがあり再読。
この本は、子ども時代の貧しい頃に始まり、どんどん出世して、信長の後継争いを乗り越え、小牧長久手の戦いに勝ったところで終わります。
秀吉のいいところで終わっているので読後感がいいです。
この後は老害秀吉になっていくので。
それにしても、極貧生活から出世していくときの秀吉って、小説にするにぴったりの人物な気がします。どんな人物に描こうとも物語になるから。
「国盗り物語」は一巻が(男性に都合のいい)エロエロな描写が多くて男性読者向けなのかうんざりしたけど、こちらはそれほどでもなかったです。
令和になってから昔の小説を読むと、男尊女卑がひどいというか、今の時代に合わないと思うことが多いです。昔は気づかなかったけど。
三浦しをん「小暮荘物語」
おんぼろアパート小暮荘に住む人たちと、そこに縁のある人たちの日常の事件がオムニバスで描かれる。
三浦しをんの小説はこれまであまり生々しさを感じなかったけど、今回はけっこう性欲に関する話が多かったです。
何より、5つめの「穴」という話には驚いた。
ストレス満載の会社員が、階下から聞こえる女子大生の声が気になって、空き室にしのびこみ畳と床板をあげて、節穴から階下の部屋をのぞき見するという話。
しかも、女子大生も気づきながら彼氏を連れ込んだりしているのに特に抗議もしない。
大家業の私としては、「これって、色々ダメでしょー!」とツッコミたくなりました。
まず、会社員が壁を蹴ったら壁に穴が開いて隣の空き室にしのびこんだこともアウト。
このブログを書いている時に、穴から撮影したり忍び込んだりして捕まった人がいましたよね。まさに犯罪です。
こんなことやられたら、刑事事件以外に、大家としてそいつに損害賠償請求しますよ。風評被害とかありそうですもん。
それと、畳と床板をはずして階下を覗くとあるけど、そんな簡単に外せる安普請のアパートってあるか?
少なくとも私の物件はフローリングだし、鉄筋コンクリート造だから無理。というかそんな安普請の床で家具置いたら床抜けちゃう。数年前の手抜き工事アパート事件よりも大事件だーー。
女子大生も大丈夫?!ま、小説ですからね。
三浦しをんの小説好きなのだけど、なんだか最近いい出会いがないです。
三浦しをん「あの家に暮らす四人の女」
杉並区阿佐ヶ谷の駅から歩20分、古い洋館に住む四人の女。
土地持ちで切り売りしてやりすごしてきて働いたことのない母鶴代、
家で刺繍教室を開き、刺繍作家として収入を得ているも母親には「趣味の刺繍で小遣いを稼いでいる」程度に思われている娘佐知、
佐知の友人で美人で仕事もできるのに30代後半で恋愛は初めから放棄している雪乃、
雪乃の後輩で元カレにストーカーされて避難するために同居はじめた20代の多恵美。
途中、語り手にカラスの善福丸や、亡くなった佐知の父の霊魂などが出てきてなんだかな―と思う部分もあり。
ストーリーとしてはイマイチはまりませんでしたが、ところどころなるほどと思う文章がありました。(正しく引用していません。要約しています)
①杉並は新宿まで電車で10分都心でもあるけど、駅から少し離れれば住宅街。さしたる企業も産業もない。「郊外のベッドタウン」「都心」のどっちつかずの眠ったような町と言う表現になるほどと思う。
②内装業者の人が壁紙オタクで、刺繍にも興味を示したことに佐知は内心感激する。
「刺繍オタクとして人後に落ちぬ佐知には好ましく感じられた。決してメジャーではないものを愛好する同士として、梶となら存分に語らうことができるのではないか」
それまで、「刺繍は趣味の延長」程度にしか思ってくれなかったので、「佐知は認めてもらいたいのだった。あなたの刺繍は、あなたの魂そのものだ、と。そして、刺繍の喜びと苦しみについて、だれかと思い切り語り合いたいのだった」
学生時代、「夷陵の戦いでもし陸遜が・・・」なんてどうでもいい話を語り合ったのを思い出しました。
③雪乃のセリフ「四十年近く生きてわかったのは、男女間に真の理解は成立しない、ということです」
わたしと夫さんは仲が良かったし(病気になる前はケンカもあまりしなかった)、ちゃんと話し合いができたし、たいてい後から「しゃおれんのいうことがあってた、ごめん」と夫さんが折れてきて、改善もできたから雪乃のセリフは「人による」と思う。
でも、同性でも理解しあうのは難しい。家族は思いやりよりも甘えが出るし。
この小説のように、恋人でも家族でもない人たちが暮らすというのも、ちょっと楽しそうと思ったりして。
谷瑞恵「思い出のとき修理します」
気楽に読めます。
恋愛と仕事に行き詰って逃げるようにさびれた津雲商店街のヘアーサロン由井に越してきた仁科明里。このヘアーサロン由井は明里が子供の頃ひと夏をすごしたおばあちゃんの家でもある。(実のおばあちゃんではないのだけど)
現在は営業していないヘアーサロンに住む明里は、近所の時計屋さんの飯田秀司や津雲神社の社務所に住み着いてる大学生の太一とともに、不思議な事件をときほぐしていくという話。
思い出を修理するというか、過去の傷ついた心を見直して癒して再出発すると言うかそんな感じの話が多い。
現実的でない妄想や幻覚のようなファンタジーな解決もあるけど、まあ、小説ですからね。楽しければOK。
一巻の最後で両想いになって、二巻ではつきあっている明里と秀司。初々しくていいよー。
秀司みたいな男は、こういった二次元の世界にしかいないと思う。
村田紗耶香「コンビニ人間」
第155回芥川賞受賞作。図書館にあったので借りました。
大学卒業後就職も結婚もせず、コンビニのバイト18年続けている恵子。幼少期からちょっと変わっているのですが、コンビニの店員として働いている時は正常に働く部品でいられる。
小学生のころに「異常」に思える言動をとったときに、「虐待があったのでは」などの原因を家庭に探すというところになるほどと思ってしまった。
「いつになったら治るのか」と嘆きはするが、そんな恵子を愛している「普通」の家族で原因は家庭ににはない。
途中から出てくるバイトの白羽という男がとにかく腹立たしい。
コンビニで働く人を「底辺の人間は」と見下し(自分もコンビニでバイトしているのに)、バイト中もできるだけさぼろうとして、「世界がおかしいから自分が不当な扱いを受けている」といい、それでいて美人の客につきまとってクビになる。
家賃が払えなくて追い出された白羽を恵子は部屋に住まわせる。(恋愛感情など一切なく、ただいい年をした男女が一人でいるより、同棲したほうが世間の風当たりが和らぐという理由で)
こういう男って実際にいそう。
ふうううううん。と色々考えました。
私の年代になると無職の独身はいないけど(あ、私はそうか。しかし、私は無職だけど無収入ではない)、「普通」「正常」ってなんだろうと。
三浦しをん「神去なあなあ日常」
これこそ、私が求めていた三浦しをんの作品。
「舟を編む」「愛なき世界」のように何かに打ち込む人々の話が好き。
三重県の神去山のふもとにある神去村に、横浜の高校を卒業したばかりの勇気は林業見習いとして送りこまれる。
当初は逃げ出したかったものの、慣れない作業に奮闘しながらも、自然と向き合う林業に夢中になっていくという話。
帯に宮崎駿が「面白い、映画になるぞ」と大絶賛の書評を載せている。
(既に映画化されていました)
みんなキャラが立っていて、森や山、祭の様子は見せ場に事欠かない。
そして、嫌な人が出てこない。
山火事のシーンが出てきて、街の住民がキノコ採りにきて煙草の火の不始末が原因なのだけど、村人たちは責めたり犯人捜しをしようとはしない。
燃えてしまうこともある。なあなあだ(なあなあは神去弁で「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」とかかなり広義の言葉)。
林業は何十年、何百年という単位の仕事なのに、火事でそれまでの何十年かがぱあになってもそんな感覚でいられるのかと不思議。
むしろそれくらい長いスパンで考えるから、途中で燃えてしまうこともあると思えるのか。
続編もあるみたいなので、読んでみようと思います。
本は図書館で借りることにしているのですが、近所は分室しかないので、本屋で見かけた本を予約しても忘れたころにやっと届く。
小説を何度も読み返すことってほとんどないから買うのもねぇ。