「天の川の太陽」
写真を撮る前に返してしまいました。
こちらは、古代の最大最後の内乱、壬申の乱をテーマにしています。
弟の大海人皇子は近江朝廷でだんだんと政治的に疎外されていき、
額田王を兄に奪われ、替わりに兄の娘を妃として迎え入れる。
妃たちと当時珍しく同居したり(これは後でゴタゴタするけど)、
身分の違う舎人たちや地方の豪族たちとも気さくに接して心から臣従され、
おおらかで細かいことを気にしない大海人皇子がだんだん追い詰められていくところと、
挙兵に向けて綿密に計画をたてていくところがメインです。
渡来系貴族や亡命百済人勢力というのがこんなに影響していたのかとか知らなかったので面白かったです。
乱に勝利しその宴の席で、
もう皇子だったころのように一緒に踊ったり飲んだりできない、という姿を見せるところで終わるというのが絶妙でした。
「天翔る白日 小説 大津皇子」
次に読んだのがこちら。これは学生の時に読んでいて、数十年たって再び読みました。
天皇の死後謀反の罪に問われ処刑されてしまいます。
大津皇子は、若いころの父天武に似ていると言われるほどおおらかで武術も漢学の才もあるとされ、
虚弱で凡庸な草壁皇子が皇太子となるものの、
天武天皇は大津を政治に参加させたりして朝廷内に派閥ができるほど。
学生の頃は、どうみても男らしい大津が可哀想、としか思わなかったけど、
大人になってから読み返したら、父に愛されて自分の才に酔っている甘い若者という印象も。
この小説での草壁皇子は全くいいところ無しだけど、
自分の美意識に殉じて、皇后のほうが修羅場を潜り抜けてきただけあって上手。
乱に勝利後、天武はどんどん妃を増やして、それまで支えてくれた皇后は自分の子に皇位を継がせるしか生き甲斐がなくなるというありがちな描き方もどうにかならないかなー。
年をとって太ってしまい女性としての魅力は若い妃たちには敵わなくなってーなんていうのは私にはあんまり。
妻として愛されなくなったからって、性悪が悪くなるっていう描き方は・・・
凡庸な草壁より、できのいい大津を押すなら色々根回ししないと。
「天風の彩王 藤原不比等」
死の直前に藤原の姓と大職冠を賜る。
天武朝では鎌足の子ということでずっと任官されず、持統朝になってから急に出世をして、
後の藤原時代のもとを築く。
もともと中臣は神祇の家で連姓でそれほどの有力豪族ではないのに、
どうして?とも思われるけど、
この小説では血族の結びつきを信頼する持統天皇に信頼され引き立てられたということになってます。
次々と妃を増やす夫天武よりも、父天智を懐かしく思うようになったとか。
おまけにこの小説では、不比等はすごい美男子でその点も女帝に気に入られたって。
それ、いるかなー(笑)
不比等は頭にくるほど賢くて計算ができて、おまけに自分を制することができて、
親の遺産とこの性格なら、多少スタートが不利でも出世できるだろうなあと思う描かれ方。
ただ弱点と言えば女性関係かなぁ(笑)
異母妹の五百枝郎女は天武の妃になって皇子まで生んでいるのに持統に頼んで譲り受けたり、
後年三努王の妻の縣犬養三千代を略奪婚したり。
どうして、わざわざ面倒な相手のものを欲しがる?それも自分の地位と権力の証と思うのかなあ。
三千代の場合は美貌というより、権力を得るためのパートナーとしてかもしれないけど。
まさに娘を妃にして外戚として実権を握るという藤原時代の礎。
その間に政敵を倒していく。
努力だけではなく、強運の持ち主なのに、不安が消えないというのに少しほっとする。
人間の欲ってキリがないってことかも。
父と息子の関係、不比等の場合は特に複雑だし。
養父の田辺大隅がよろし。
「闇の左大臣 石上朝臣麻呂」
正史でも経歴がよくわからないが、当時としては驚くほどの長命で平城京遷都の時まで存命だったので
最後は最高位の左大臣になっていたという。
この小説の中では、下級役人としての逞しさがでています。
「殉死もしない奴」として見下されても、
いつかは貴族になりたいとひたすら耐え忍び出世の機会を伺う。
間者として活躍したり、遣新羅大使にもなるのに、
年を重ねてしまうのになかなか位が上がらないことに悩んだりするところに、
庶民の私は共感してしまう(笑)
権力者たちの争いを外から見ているところも面白い。
黒岩重吾氏の絶筆ということですが、もっとたくさん書いてほしかったです。
ワカタケル大王や継体天皇の話もあるし、まだまだ私の中のブームは続きそうです。